神々の国・石見から生まれたバッグ――K-iwamiが紡ぐ、136年の物語
島根県益田市。山陰の静かな町に、一軒の老舗呉服屋があります。創業は1890年(明治23年)。四代にわたり、きものと共に歩んできた「むらたや」です。
その呉服屋が、なぜレディースバッグブランドを立ち上げたのでしょうか。そして、なぜ「K-iwami(きわみ)」と名付けたのでしょうか。その答えは、島根という土地の神話と、職人への深い敬意と、「消えゆく伝統を救いたい」という切実な思いの中にあります。
明治の商人が残した精神――創業者・村上清三郎の教え
物語は1890年(明治23年)、島根県江津市津野(当時)に遡ります。創業者・村上清三郎が「村上清三郎商店」を開いたのが始まりです。きものや衣料品を扱う一般呉服商として、地域の人々の暮らしに寄り添いながら歩みはじめた小さな店でした。
清三郎は「機転が利いて、誰からも信頼される人物」だったと伝えられています。その精神を受け継いだ二代目・村上公(ただし)氏は、1937年(昭和12年)に島根県益田市へ「むらたや」を開業しました。1954年(昭和29年)には高級きもの専門店として新たな一歩を踏み出し、家訓を一つ定めます。

「世の中にたくさんの商品がある中で、お客様はわざわざ当店できものや帯、和装小物を選んでくださっています。ならば私には、良い品を手頃な価格でお届けする使命があります」
この「より良いものを、より安く」という精神は、三代目・村上寛氏、そして現在の四代目・村上徹氏へと、136年間変わらず引き継がれてきました。時代が変わっても、むらたやの根幹にある「お客様への誠実さ」は、一度も揺らいだことがありません。
「石見(いわみ)」とは何か――神話が宿る土地の名前
「K-iwami」というブランド名を聞いて、皆さんはどんな言葉を思い浮かべるでしょうか。「極み(きわみ)」という日本語の響きと、「石見(いわみ)」という地域名が重なり合った、意味深いブランド名です。
島根県西部を「石見(いわみ)」と呼びます。山陰の山と海に囲まれたこの地域には、かつて出雲と一つの国だったという神話が残っています。

その伝承によれば、昔、出雲と石見がまだ同じ国であったとき、この地を平定しようと神の兵(神兵)が雲のごとく「屯聚(いはみ=集まる)」したため、「いわみ」という国名が生まれたのだといいます。
神々が集う国、しまね。そのなかでも、神兵が雲のように集った石見の地。
「K-iwami」というブランド名には、この神話的な土地への誇りと深い敬意が込められています。そして「極み(きわみ)」という言葉には、職人たちが技術を極めてきたことへの敬意も重ねられています。一つのブランド名の中に、土地と人と技術への思いが凝縮されているのです。
呉服屋がバッグを作った理由――二つの危機感
136年間きものを扱ってきたむらたやが、なぜバッグブランドを立ち上げたのでしょうか。そこには、二つの強い危機感がありました。
一つは、「島根の素晴らしさが全国に届いていない」という思いです。山陰地方はまだ知名度が低く、島根が誇る伝統素材や職人技術は、多くの人に知られていません。長年、日本の伝統衣装であるきものと向き合ってきたむらたやだからこそ、この現状がもどかしく感じられました。
もう一つは、「伝統工藝が静かに消えていく」という焦りです。後継者不足、職人の高齢化、需要の低下――日本各地で「匠の技」が失われつつあります。長年、きもの職人たちと向き合ってきたからこそ、その危機は他人事ではありませんでした。
「島根の良さを伝えたい。伝統の技を後世に残したい。」
この二つの思いが一つになったとき、まったく新しい形のプロダクトが生まれました。
それが、レディースバッグ「極み」シリーズです。
三つの「極み」が一つのバッグに・・・
K-iwamiのバッグは、三つの要素が一つに結晶することで生まれます。
素材の極み――「かみのいと®」
出雲の紡績会社が開発した超軽量繊維です。通気性・吸水性・速乾性・耐久性に優れ、消臭・殺菌・接触冷感作用まで持ちます。「かみのいと®」という名前には、神々の国・出雲への敬意が宿っています。持ち上げた瞬間の驚くような軽さは、この素材なしには生まれません。

染めの極み――「江戸小紋®」

経済産業大臣が指定する伝統染色技法です。熟練の染め師が一枚一枚、「かみのいと®」の生地に精緻な文様を描いていきます。
東京オリンピック2020のエンブレムにも採用されたこの染色技法が、現代のバッグの上に息づいています。
縫製の極み――「始澤バッグ」
熟練バッグ職人・始澤建次氏が率いる縫製工房が、一針一針丁寧に仕上げます。機械では再現できない、人の手だけが生み出せる精度がそこにあります。
さらに、バッグの部材には石見地域で作られた「石州和紙」が使われています。ユネスコ無形文化遺産にも登録されたこの和紙は、強靭さと柔軟さを兼ね備えた、石見が誇る素材です。素材から染め、縫製、そして部材にいたるまで、すべてが「ALL MADE IN JAPAN」の誇りのもとに作られています。

ブランド名に込めた三つの意味
K-iwamiというブランドには、三つの言葉が重なり合っています。
「カミ(神/紙)」は、「かみのいと®」と「石州和紙」、二つの「カミ」を表しています。「極み(きわみ)」は、職人たちの繊細な技の結晶です。そして「石見(いわみ)」は、このブランドが生まれた土地への誇りです。
日本語のひびきの中に、素材と技術と土地への敬意がすべて折り畳まれています。一つひとつの言葉の重なりが、このブランドの世界観を静かに物語っています。
島根から世界へ――伝統をつなぐ架け橋として
2023年には、日本在住の外国人が選ぶ「OMOTENASHI Selection」にK-iwamiのショルダーポシェットが認定されました。これは日本文化の魅力を世界に伝える製品として高く評価された証です。外国人の目に映ったK-iwamiの「おもてなし」とは、製品の軽さや美しさだけではなく、その一つひとつに込められた物語の深さだったのではないでしょうか。

K-iwamiが目指しているのは、単なる「良いバッグ」ではありません。日本の伝統工藝を未来へ渡すための「架け橋」であり、神々の国・石見から発信する、日本のものづくりへの誇りの結晶です。
136年間きものを守ってきた呉服屋がバッグを作ることは、決して「業態転換」ではありません。きものを通じて培ってきた「本物を見る目」「職人への敬意」「伝統を未来につなぐ使命感」が、バッグという新しい形になって現れたのです。
手に取ったとき、その軽さにきっと驚かれることでしょう。そして、細部に宿る染めの精緻さに気づいたとき、このバッグがいかに多くの人の思いと技術を抱えているかを感じていただけるはずです。
K-iwamiのバッグを持つことは、石見の神話の土地に触れることであり、明治から続く呉服屋の家訓を受け取ることであり、今まさに存続の危機に瀕している職人の技を未来へつなぐことでもあります。日常に寄り添いながら、日本のものづくりの誇りを静かに伝える
――それが、「K-iwami(きわみ)」という名前の、本当の意味です。
*K-iwamiの製品は、公式オンラインストア([k-iwami.com](https://k-iwami.com/))および東京・日比谷シャンテB1Fの島根館にてお取り扱いしています。*